街を歩くと、いや街を歩かずネットをウロウロしていても、そこはクリスマス一色。寒くなってくると園芸界隈も自然と静かになってきますが、そんな寒い冬にこそ、むしろ雪に覆われた極寒の季節だからこそ、イキイキ輝く多肉植物がいます。それが「センペルビブム」たち。
冬に強いと言われるけど夏に弱いセンペルビブムを絶対に夏越しさせるアグレッシブな方法も紹介しつつ、ちょうど紅葉の時期を迎えて赤と緑のクリスマスカラーに彩られたセンペルさんを総力特集いたします。
寒さに強い多肉植物をお探しの方に、まず一番に紹介したいのがこのセンペルビブム。主にヨーロッパの、年中寒くて冬は厚い雪に覆われる山間部や高原エリアにお住まいの、完全耐寒仕様の多肉植物。その小さなカラダに似合わず、-30℃の極寒にも耐えると言われています。
人類とは1000年以上の長いお付き合いのある植物で、山小屋を建てると屋根の上によく生えてきて、これが落雷から家を守ってくれるという言い伝えも残っていることからも、親しまれてきたことが伺えます。
他の多肉植物と違ってなんとなく高貴なイメージなのと「ヨーロッパ原産」というのは偶然というわけでもなさそう。ヨーロッパと言えば庭園。庭園と言えばバラ。そんな華やかな園芸の中心地ヨーロッパで古くから愛されていたセンペルビブムたちは、交配や品種改良によって色柄豊かな多くの品種が生まれ、流通しています。
名前をよく聞く定番種はもちろんあるけど、新品種の登場や衰退は今も激しく、出会った品種はもしかしたら次の出会いは無いのでは?という一期一会感もコレクター心を刺激します。
「センペルビブム」とはラテン語で「センペル(常に)」+「ビブム(生きている)」という意味。「センペル=永遠に」と説明している文献もありますが、辞書的にはそういう意味はなくて意訳かもしれません。和名はその意味を汲んで「万代草」といいます。
そうなんですよね。唇が動きません…。なので、センペルビウム、センペルビュームという表記も見かけます。が……ちょっと待って! よくよく聞いてみると、英語ではこれを、センペルバイバム(英国)とか、センペルビーバム(米国)と読むようです。これだとちょっと読みやすくないですか? 個人的にこれが普及してくれないかなーと密かに思ってます(単に「センペル」っていえば通じるのでそれで事足りますが)。
センペルビブムは長きにわたって広い地域で愛されてきたこともあって、英語圏ではいろんな呼び名があります。
「House Leek」直訳すると「家のネギ」ですが、花が咲く時に花芽を伸ばした姿がネギのカタチに似ているからそう呼ばれるんだとか。ネギとは何の血縁関係もありません。「Hens and Chicks」とも呼ばれますが「雌鳥とひよこ」です。子株をたくさんつけて寄り添っている様子から、でしょうか。
雷にちなみ、ギリシャの空と雷の神ユピテル(ジュピター)や北欧神話の雷神トールに結びつけて「Jupiter's Beard」や「Thor's Beard」という名前も残っています(Jupiter's Beardはそのまま「ジョビバルバ」という属名になっています)。
センペルビブムに近い仲間をその違いとともに紹介して、センペルビブムの輪郭を描いていこうという恒例のコーナー。
パッと見で区別をするのが難しい属。学術的にはセンペルビブムと同じものとされています。大きな違いは子株の出来かたで、ジョビバルバはランナーを伸ばさずに、親株のすぐ近くに寄り添ってポコポコ群生します。くっつくチカラも弱くてちょっと触るとポロポロはずれます。そのままコロコロ転がって広がっていく戦略でしょうか。
こちらも外見で区別するのは難しいですが、花を咲かせると、エケベリアに似たすずらんのようなかわいい花を咲かせてくれます。
いやいやだいぶ見た目が違いません?って思うかもしれませんが、いやいや、ツヤ感あって固くてパキッとしたプラスチックのような葉っぱの質感が似ていません? そう。見た目の印象は異なりますが、血縁は近く、センペルビブムが西アフリカのカナリー諸島に渡って、そこでガラパゴス的な独自進化をしたのがアエオニウム。センペルビブムと同様に冬に強いので寄植えにオススメです。
オロスタキスも近いグループ。ランナーを伸ばして増えるところや、花の咲き方がセンペルやアエオニウムに似たコたち。同じように高原エリアにお住まいで寒さに強い種もあります。
同じベンケイソウ科の中ではかろうじて近いといえば近いですが、生息エリアも増え方も見た目も違うので一緒に植えるのは控えたほうが良いかなーと思う境界線。中にはセンペルのようにランナーを伸ばして増えるコもいます。
血縁も生態も全く異なるグループですが、「寒さに強い」というのと「ヨーロピアンガーデンで活躍している」というポイントで園芸的にジャンルが近いグループ。センペルと一緒にお庭を飾ってあげてください。
もともとヨーロッパアルプスにお住まいの高山植物で -30℃にも耐えるという情報もあるから基本的に冬はノーガードでOK。ただ逆に夏の暑さに弱いので、夏の暑い時期は、日差しを避ける、水を極力控える、涼しい場所に移すなどの手厚い保護を……。と言いたいところですが、いっそのこと全部抜いてトレイに並べて日陰に置いておくことをオススメします。球根のように。
若い株でもおかまいなしに、子株をよく出しどんどん増えます。出てきた子株はすぐに切り離しても生きていけますが、できれば1~2cmくらいの大きさになるまでは切り離さずに親から養分をもらっておくと成長も早くなります。カットした子株は植え付けなくても1年くらいは生きていけます。万一のときの予備に取っておいても良いかもしれません。種のように。
環境にもよりますが、その後1年で3cm程度の苗に、さらに1年で6~10cmの親株に成長します。
子株として生まれて、2~3年ほど順調に成長すると花を咲かせることがありますが、花を咲かせた株は枯れてしまいます。なので子株はきちんと保護して常に数株程度は育てるようにしておくのが長く楽しむ秘訣です。
具体的にどうやって育てたら良いの? 1年間の季節ごとの管理の方法は? 夏越しってどうしたらいいの? それは文章で書くよりも実際に見てみたほうが早いですよね。
こんなもりもり「センペル丼」を目指しましょう!
この最高にもりもりで密々のセンペルですが、梅雨前になんの対策もせずに放置すると甚大なダメージを被ります。これを避けるのが最大の目的です。具体的対策は最終章で……。
夏に甚大なダメージを受けたセンペル丼を更地にして、残った子株と、予備でとってあった脇芽を申し訳手程度に植え付けました。こんなにスッカスカで大丈夫?
ちょっとスカスカすぎたので、3号ポットを4鉢買ってきて追加しました。左側が11月植え付けの子株、右側が1月植え付けの苗。この時期からでも十分楽しめることを証明します!
これから寒さのピークを迎えますが、わりとちょくちょく水やりをしていました。
センペルの春は早い。真冬でも成長を続け、3月に入るともう脇芽を伸ばし始めます。注目すべきは、ここで脇芽を伸ばしているのは左側、つまり昨年生まれたばかりの子株なんですよね。1年で10倍になるねずみ算式繁殖力。
古い葉っぱが大きくなって、空いていた隙間がほぼ埋まってしまいました。紅葉は流石に控えめになってきましたが、逆にこの時期でも十分に紅葉しているということでもあります。
見頃と言う割に、この時期の写真が他にないのはなんでだろう……。
さらにボリュームアップ。もう隙間がなくて、脇芽がロゼットの上で根っこを伸ばすカオス状態だったので、脇芽を外すのと同時に密すぎるところを間引きました。
11月の「点々」だったものが半年で密々にまで生長してくれました。このままでは去年の大災害を繰り返してしまうので、思い切って半分以上を引っこ抜き、トレイに並べて涼しいところで休ませます。
8月の終わり。暑さもちょっと和らいだころ。「枯れてもいいや」のつもりで放置していたスカスカの丼が「ノーダメージ」だったのを見たとき、「センペルの育て方」の核心を得た気がしました。
センペルビブムは同じ個体でも1年を通して姿形や色柄がコロコロコロコロ変わるので、見てて楽しいという魅力である一方、「この品種はこういう特徴がある」というのが特定しにくいのは正直なところです。冬や夏のピークカラー、モケモケの量、葉っぱのカタチ、ロゼットの最大直径や子株の量などを1年を通して並べて比べているとなんとなくつかめてくる感じです。
ちょっと価格が安いし、似たようなコが並んでるし、他のバラエティ豊かな多肉植物たちに比べるとどうしても1段下に見られがちなセンペルさんたち。でも園芸の本場ヨーロッパでは、遠く離れたメキシコ出身のエケベリアたちよりもずっと長い間ガーデニングに関わってきたオーセンティックな多肉植物ということが伝われば本望です。
イングリッシュガーデンのような自然派ヨーロピアンガーデンがお好きな方は、ぜひお庭の隙間にチマチマ植えて、可愛い花を愛でていただければと思います。